「ふう」夏号より つげ幻象抄出(no.36)

踏切が鳴れば正午や冬菜畑栗山政子
一の糸響き冬山静もれり髙木胡桃
だんだんとずれてぶらんこ擦れちがふ柘植史子
雛飾りあつけらかんと入院す 辻 紀子
夫をりて静かな朝や東北忌添田ひろみ
目礼の二度目は笑まふ梅の花中田千惠子
高く低くボール蹴る音三日かな春田こでまり
落葉かさこそ肉球の跳ねるたび春田珊瑚
一月の坂のぼりゆくフランスパン徳永芽里
買初や新刊の帯ぎしぎしと 久松よしの
寒林の一木がいま動き出す深澤れんげ
雛箱の七年前の新聞紙前川 久
ちよつといい珈琲を買ひ年用意 東川あさみ
枯蘆の穂に午後の日の澱みたる 村井丈美
狂ひ花うしろから寄る人のこゑ両角鹿彦
人の日の道草を食ふ平和かな安田蒲公英
蠟梅の香に包まれて郵便局三津守祐美子
凍てゆるむ土もそもそと動きけり安藤貴夫
春近しケーキに落とす金の粉山本洋子
はらこ解して母のこと祖母のこと伊津野 均
冬萌や水の綺麗な村に住みうかわまゆみ
手袋をはめて優しき掌となりぬ五十嵐妖介
あたたかや鼻唄がでて水仕事 岩片えみ
落葉風行きと帰りは違ふ橋蔵田孝子
掘り起こす雪の中なる家一軒小林美喜子
三・一一布団畳みて布団敷く海野良子
春夕べきつと明日を好きになる池田のりを
初晴や遠くを人のよぎりたる塩見明子
雪女かの世の雪を連れてきし杉本かつゑ
永き日や手紙の隅へ花の絵を小山鷹詩
肋骨のレントゲンなり初山河酒井航太
裸婦像の伏眼のままや春の雪栗山 豊秋