「ふう」夏号より つげ幻象抄出(no.28)
薄氷を突きたる指が水になる | 栗山政子 |
永き日のときどき動く象の耳 | 添田ひろみ |
ムスカリの青へおはやうございます | 髙木胡桃 |
笑ひだす縄飛の子が縄の子が | 柘植史子 |
サバランに酔ひ春宵の街歩く | 辻 紀子 |
薄氷押せばきのふの軋みゆく | 徳永芽里 |
手に馴染む保湿クリーム初明り | 中田千惠子 |
着ぶくれてフリー切符をポケットに | 春田こでまり |
こんがりと鯛焼の鰭旅の空 | 春田珊瑚 |
王国は人口二名冬籠 | 東川あさみ |
ただ天井眺むるために春炬燵 | 久松よしの |
長生きを願ふでもなく寒卵 | 広瀬信子 |
ぎいと啼きクレーン傾ぐ冬の底 | 深澤れんげ |
雛の宴ノンアルコールに頬染めて | 前川 久 |
弟の庭を守りて山茱萸黄 | 三津守祐美子 |
十二月付録外せば輪ゴム飛び | 村井丈美 |
楽しめばひとつ年とる蓬餅 | 両角鹿彦 |
一世紀を生きぬいて春母の春 | 安田蒲公英 |
クロッカス幼はしやがむこと覚え | 山本洋子 |
雪あられ狂ひ狂ひて宙に舞ひ | 岩片えみ |
葛湯吹き合ひたる深き間柄 | 伊津野 均 |
冬満月からつぽの家ふくらめり | うかわまゆみ |
焼藷をふたつに割つて優しき目 | 五十嵐妖介 |
水仙や見知らぬ町が近くなる | 池田のりを |
冬天へ声吸はれゆく朝稽古 | 大石 修 |
梅に風こころを揺らし香を揺らし | 蔵田孝子 |
冬深し家族の糧を積む厨 | 小林美喜子 |
幸せのかたちに仔猫抱かれたり | 海野良子 |
真夜中の非常階段二月尽 | 酒井航太 |
石蕗の花群れてさみしさ深まりぬ | 塩見明子 |
獅子舞の赤子なかせて身の軽し | 杉本かつゑ |
暗渠にも春雷ひとつ滑り落つ | 小山鷹詩 |