「ふう」冬号より 栗山政子抄出(no.18)
秋暑し消毒液の泡あふれ | 蔵田孝子 |
子規の柿わたしの柿と並べをり | 小林美喜子 |
歯に染みるほど木犀の香の甘し | 小山鷹詩 |
コロナ禍の鬼ごつこする夜長かな | 酒井航太 |
小説に中だるみあり扇風機 | 塩見明子 |
コスモスやきのふもけふも雨の中 | 杉本かつゑ |
少年の指真つ直ぐに遠花火 | 添田ひろみ |
一列に今年は白の彼岸花 | 髙木胡桃 |
雨戸無き百戸二百戸初嵐 | 田中まり |
貯水池の底のタイルのゆらぎ朱夏 | つげ幻象 |
五指を伸ばせば紫陽花の触れてくる | 柘植史子 |
明治村の帝国ホテル小鳥来る | 辻 紀子 |
秋めくや野の片隅に穴のあき | 徳永芽里 |
追善の堂をゆたかに蟬時雨 | 中里鮎子 |
夏の月文箱を出づる母の文字 | 中田千惠子 |
考へのがらりと変はり梅雨に入る | 春田こでまり |
検索のさくさく進みソーダ水 | 春田珊瑚 |
夏嵐大きな赤子生まれけり | 東川あさみ |
風が背を押す片蔭の上り坂 | 久木すいか |
ギャラリーの原色に噎せ夏ゆけり | 久松よしの |
独りは楽しヒッチコックを観る薄暑 | 広瀬信子 |
郭公の声ひとすぢの道となり | 深澤れんげ |
夏の夜の頭寄せあふ星座盤 | 前川 久 |
こはごはと捥ぐ初生りの胡瓜かな | 三津守裕美子 |
花野行く本名知らぬ者同士 | 村井丈美 |
階段の疵美しき夏館 | 両角鹿彦 |
湧水に樹影くつきり九月尽 | 安田蒲公英 |
ユーチューブの波音を聴く秋夕べ | 山本洋子 |
革命は石一個より金魚鉢 | 五十嵐妖介 |
産土の野川よ丘よ終戦日 | 池田のりを |
ケバブ削ぐ人の口髭秋の風 | 伊津野 均 |
饅頭を割つて二つの良夜かな | 上田信隆 |
日車よ生家さつぱり消え失せり | うかわまゆみ |
八千草やどこに立ちても湖の風 | 海野良子 |
水の香を水より掬ふ新豆腐 | 大石 修 |