「ふう」冬号より 栗山政子抄出(no.22)

臼で挽く青き香りや走り蕎麦春田こでまり
老鶯うるはし高原ホテル朽ち春田珊瑚
癒されたき人ばかりゐる泉かな東川あさみ
今朝秋の平熱示す体温計久木すいか
とんばうの翅の透けゆく川辺かな久松よしの
旅終へてタクシー探す夏の月広瀬信子
炎天の大樹の影の渇きをり深澤れんげ
保冷剤に埋もれて届く紫蘇ジュース前川 久
新病院青田の沖に城のごと三津守祐美子
金づちの友とプールにだらだらす村井丈美
版画展往きと帰りの青葉闇両角鹿彦
秋渇きノイズの混じるボブディラン安田蒲公英
花芙蓉おしやれな靴はくたびれる山本洋子
深呼吸せよ薔薇園のど真ん中五十嵐妖介
利休ならこの朝顔を残すべし池田のりを
英文科出の父の経し敗戦日伊津野 均
いわし雲坂を下れば港に灯上田信隆
花ざくろ消毒好きの父のゐてうかわまゆみ
月の鶉畑を塒にうづくまる海野良子
頂の標に触るる霧の中大石 修
もう夫の係累なくて衣被蔵田孝子
父の畑原野に戻り秋彼岸小林美喜子
無花果にかぶりつきたき独りの夜小山鷹詩
カーテンとカーテンの間の秋の山酒井航太
緑蔭や頁をめくる音ばかり塩見明子
手も足も豊かに老いて月見酒杉本かつゑ
緑蔭にドロップ缶を鳴らす子ら添田ひろみ
髪を切り釣瓶落しの街へ出づ髙木胡桃
ハングライダー少し傾く蓮の水田中まり
知恵の輪に夜のほどける白露かなつげ幻象
コスモスとゐる今だれからも自由柘植史子
磯の香や星と語りて藍浴衣辻 紀子
青嵐レントゲン車に人並び徳永芽里
瀧落ちて山中蒼く翳りたる中田千惠子