「ふう」夏号より 栗山政子抄出(no.20)

大寒や日差しを集め文を書き髙木胡桃
夜も昼も歩く蠟梅すれすれに田中まり
淡雪や郵便局に人と会ひつげ幻象
母をりし頃まで照らす冬日かな柘植史子
初蝶を載せ遮断機の下がりくる辻 紀子
アネモネの赤とほり過ぎ眼の検査徳永芽里
三寒四温手紙を出して手紙待つ中田千惠子
人込みを避けて暮らして寒椿春田こでまり
ロートレック観にゆくマント翻し春田珊瑚
喉元に夜の砂漠あり葛湯吹く東川あさみ
引越の荷のこぢんまり初桜久木すいか
着ぶくれて肌身はなさぬ乗船券久松よしの
老人は毎日孤独寒の晴広瀬信子
大榾の一瞬爆ぜて第九かな深澤れんげ
和鋏と老眼鏡と冬日向前川 久
二本目の伸び伸びとして風信子三津守祐美子
金網のたわむ春愁預ければ村井丈美
啓蟄や地球の裏は足のうら両角鹿彦
オンライン会議仔猫を膝にのせ安田蒲公英
糸二本針穴を行くあたたかし山本洋子
濤の声を吾に訳せよ冬鷗五十嵐妖介
観梅や流るる雲を友として池田のりを
春三日月ゆつくりと児の老いてゆく伊津野 均
春風や沖へ沖へと船の水脈上田信隆
人工の湖を見下ろす里桜うかわまゆみ
エンジンをかけてタクシー春を待つ海野良子
銀翼や冬三日月の消え忘れ 大石 修
冬濤の荒ぶほど心しづまる蔵田孝子
亡母来て吾が春眠を揺すりたる小林美喜子
エレベーター水仙の香も真四角に小山鷹詩
空き缶が転がつてゐる咳が出る酒井航太
ローリエの匂ひの残る冬ともし塩見明子
冬菫ゆるりと過ぐる齢かな杉本かつゑ
綿菓子の国に住みたし春霞添田ひろみ