「ふう」春号より 栗山政子抄出(no.23)

天高し五人のための映画館前川 久
拾ひ来し栗も入れたるおこはかな三津守祐美子
猫の爪切るよ狐火近づけて村井丈美
冬鵙の一声白土三平逝く両角鹿彦
空の蒼に透きとほる月秋の果安田蒲公英
秋日和一席だけの美容室山本洋子
初しぐれ知人探して通夜の列五十嵐妖介
ふるさとやまた綿虫に道譲り池田のりを
枝の葉の十一月の宙ぶらりん伊津野 均
底冷えやポストに刺さる新聞紙 上田信隆
挨拶は鈴の音に似て露の朝 うかわまゆみ
兄弟のそれぞれの船石蕗の花海野良子
川波の真中を割りて鰡飛べり大石 修
草の花ハイヒールには戻れない蔵田孝子
片時雨肘やはらかに父逝けり小林美喜子
冬ざれやあちらこちらに過去がゐて小山鷹詩
毬栗といふ物体に裂目あり酒井航太
火恋し手でちぎりたるガムテープ 塩見明子
コスモスや何時もの電車乗り遅れ杉本かつゑ
父とよく休みしベンチ冬の蝶添田ひろみ
どつしりと夜を捉へて金木犀髙木胡桃
東京二十三区蛇穴に入るつげ幻象
写真判定秋風の切りとられ柘植史子
はたと止みたる絶壁の昼の虫辻 紀子
秋燕や八号棟の空を抜け徳永芽里
過ぎし日が眼鏡に宿る日向ぼこ中田千惠子
恐竜の足跡残し山眠る春田こでまり
クレーン伸びゆく渋谷の秋天へ春田珊瑚
ハンバーグ丁寧に焼き豊の秋 東川あさみ
干されゐるすべてが眩し村小春久木すいか
秋深し手帳にレシピみつしりと久松よしの
朝時雨ラジオを消して耳すます広瀬信子
冬の鵙声を磨きて甲斐の空深澤れんげ