「ふう」夏号より 栗山政子抄出(no.24)

戦禍の報しきりなる蛇穴を出づ安田蒲公英
雪搔の音に呼ばれて雪を搔く 山本洋子
冬座敷一刀彫の熊猛る五十嵐妖介
きりきりと寒九の月が風を射る池田のりを
終点は木地師の村や水木の芽伊津野 均
大寒や胸に亀裂の仁王像上田信隆
まんさくに一歩遅れをとりにけりうかわまゆみ
木の芽吹く水禍の橋を架け替へて海野良子
寒明の池の底より泡ひとつ大石 修
凩の張りつく枝の高さかな 蔵田孝子
青空や路面に刺さる雪解水 小林美喜子
小春空スープ飲む吾もいつか死ぬ小山鷹詩
何もかもわからなくなり春の海酒井航太
かちかちと貝の煮えをる寒の入塩見明子
旅立ちの轍伸びゆく春の雪杉本かつゑ
目にも幸けふのポワレの桜鯛 添田ひろみ
春はあけぼの朱鷺色のオフィス街髙木胡桃
狛犬のこゑをききたき遅日かな つげ幻象
まだ落ちぬ椿を囲む落椿 柘植史子
朱印帳受くる小窓に福寿草辻 紀子
白梅に淡き夕日のながれけり徳永芽里
淡雪の午後の眠りに積もりけり中田千惠子
臘梅の残る一樹の香り立つ春田こでまり
富士晴れて石焼藷の蜜甘し春田珊瑚
十二月の鏡の中に母を見る東川あさみ
黒潮の海を見下ろし冬菜畑久木すいか
春の朝モーツルトとヨーグルト久松よしの
女正月裏地に兎遊ばせて広瀬信子
寒林の光のシャワー浴びにけり 深澤れんげ
金継ぎを終へたる皿へ桜餅前川 久
白い道椿の紅の灯りたり三津守祐美子
はちみつの舌に重たき雨水かな村井丈美
畦火より魔人の相の姥来たる両角鹿彦