「ふう」秋号より つげ幻象抄出(no.25)
雨雲湧く蟻にさきがけの一滴 | 栗山政子 |
表札に四谷區とあり濃紫陽花 | 池田のりを |
また出会ふ役場の車麦の秋 | 伊津野 均 |
一塊の舟の形の古巣かな | うかわまゆみ |
清水汲むコップに砂のをどり込む | 海野良子 |
未だ細き沢の出合ひや岩燕 | 大石修 |
戦争は嫌と卆寿の雛祭 | 五十嵐妖介 |
惜春や駅のベンチは山を向き | 蔵田孝子 |
粽結ふ都会に育つ孫に結ふ | 小林美喜子 |
母として生まれたわけでなし立夏 | 小山鷹詩 |
風船をもつ少年と河馬の口 | 酒井航太 |
黄金週間車一台づつ光り | 塩見明子 |
新緑の古木に宿る神の顔 | 杉本かつゑ |
通勤のアスファルトより夏兆す | 添田ひろみ |
ピンポンと鳴り茹でたての筍来 | 髙木胡桃 |
早退の子か蒲公英をふり回し | 柘植史子 |
そこ踏まないで山すみれ咲くところ | 辻 紀子 |
花屑に吾が影をのせ歩きけり | 徳永芽里 |
母は子を子は人形を抱く暮春 | 中田千惠子 |
清明や青のインクのガラスペン | 春田こでまり |
鯉二匹くる花筏従へて | 春田 珊瑚 |
調律のピアノ裸に花の昼 | 東川あさみ |
反抗期手に一本のカーネーション | 久木すいか |
伐採の白き切口春惜しむ | 久松よしの |
山帽子ウエイトレスはスニーカー | 広瀬信子 |
菜の花や地平線まだ見えませぬ | 深澤れんげ |
にんにくの香る芒種の裏通り | 前川 久 |
連翹の黄色ひしめく誕生日 | 三津守祐美子 |
郭公の朝赤銅のミルクパン | 村井丈美 |
沢蟹が重機のごとく芥摘む | 両角鹿彦 |
走り梅雨電車遅延の電子文字 | 安田蒲公英 |
傾きて膨らむスコーン南風 | 山本洋子 |