「ふう」冬号より つげ幻象抄出(no.26)

一隅の明るき夜空栃の花栗山政子
八朔相撲子供行司の声太し 海野良子
欄干の朽ちたる橋や蓮浮葉大石 修
目一杯頑張る気なく花茗荷蔵田孝子
羽蟻群る出穂の丈揃ひたる小林美喜子
寝返りの形にゆらぐ熱帯夜小山鷹詩
雨音に混じる耳鳴り夏の果酒井航太
立秋や輪ゴムが一つ落ちてゐる塩見明子
教会の鐘の音響くソーダ水杉本かつゑ
あなうれしけふの藪蚊は夫が好き 添田ひろみ
夏の夜を叩きマリンバ四重奏髙木胡桃
銀漢やとほく着信音の止み柘植史子
あすはあすわれ武蔵野に草を引く辻 紀子
氷水顔上ぐるたび水平線徳永芽里
飛び立ちし蟬へ重たき蟬時雨中田千惠子
英会話何度も聴きて心天 春田こでまり
水飲まな猛暑猛暑の朝がくる春田珊瑚
峰雲を蹴飛ばしぎゆつと逆上がり 東川あさみ
鬼灯を生け仏壇の暗くなり 久木すいか
草刈機止みて草木のそよぐ音久松よしの
冷房のきいて真鯛のポワレかな広瀬信子
会ふ時はみな童心や馬肥ゆる深澤れんげ
ガラス器に透きとほる菓子夏惜しむ前川 久
肩車ゆく向日葵の迷路かな三津守祐美子
噴水を開けて非番に入る人村井丈美
異人街果てて海月の運河かな両角鹿彦
睦み合ふ影は一瞬遠花火安田蒲公英
らつきよ漬ほんの一つの母らしさ山本洋子
髪染めて繰りだす祭ヨーイヨイ 岩片えみ
ぐんぐんと夜空濃くなる冷し瓜伊津野 均
朴の花咲く看護師の夜勤明けうかわまゆみ
路線図を見上げて重きメロンかな五十嵐妖介
炎天の救急車追ふ救急車池田のりを