「ふう」春号より つげ幻象抄出(no.27)

行く年の空を仰げば櫂の音栗山政子
日曜の林檎つやつや光りけり 小山鷹詩
鍵穴と合はない鍵の十二月酒井航太
小春日や影のびのびと動きたる塩見明子
冬紅葉終着駅に灯ともりて杉本かつゑ
熊手抱き新宿区役所通り昼添田ひろみ
坂道のてつぺんにある寒さかな髙木胡桃
朝顔にきのふとけふの隣りあふ柘植史子
奥山の風の音聴く木守柿辻 紀子
山の名を端から言へば秋気澄む 徳永芽里
野葡萄の色それぞれの音聴かむ中田千惠子
村営のバスにゆられて大花野春田こでまり
秋霖や木材匂ひくる埠頭春田珊瑚
飛行機雲ほどけて海へ秋日濃し東川あさみ
立冬の扉の重き映画館久松よしの
香箱蟹丁寧に茹で我が夕餉 広瀬信子
雲湧いて踊櫓に風ぬける深澤れんげ
練切の餡のももいろ雪催 前川 久
満開のコスモス・ロード鷗飛ぶ 三津守祐美子
寒禽のこゑ襟足にすべりこむ村井丈美
立冬の月蝕を追ふのどぼとけ両角鹿彦
流れ星夫を階下に残しおき山本洋子
芸術が唯そこにある杜の冬岩片えみ
遣り直し出来さう木枯の朝伊津野 均
雁渡し朝の戸口に牛乳瓶うかわまゆみ
遠ざかる背中と背中木の実降る五十嵐妖介
金木犀いつもの町の新しき池田のりを
雲一つ山へ被せて今朝の冬大石 修
ホットドッグ買ひに芒をかき分けて 蔵田孝子
コスモスよ母の確かな息づかい小林美喜子
茸飯食べれば佐渡の消えてをり海野良子