「ふう」秋号より つげ幻象抄出(no.29)
卯月野へ蝶は海峡越えきしか | 栗山政子 |
時告ぐる鐘にものの芽ふるへけり | 徳永芽里 |
大鍋を据ゑ筍を待ちゐたる | 中田千惠子 |
母の日や笑顔の母のボブカット | 春田こでまり |
春宵や港に似合ふカクテルを | 春田珊瑚 |
山桜峠は風の音ばかり | 東川あさみ |
幾重にも罪を重ねて薔薇赤し | 久松よしの |
春到来ジャズのリズムに指ならし | 広瀬信子 |
梅が香の下の真顔の赤ん坊 | 深澤れんげ |
そつと握る喪主の手ぬくし春北斗 | 前川 久 |
みどりの日リュックに隠しポケットが | 三津守裕美子 |
あたたかし絵具を吸うて紙うねり | 村井丈美 |
六月の色に濡れたる非常口 | 両角鹿彦 |
お洒落着を選りては戻す薄暑かな | 安田蒲公英 |
初蝶の喜び分けに来たりけり | 山本洋子 |
春暁や旅の匂ひの長き貨車長き貨車 | 岩片えみ |
夕暮は薄緑いろ豆御飯 | 伊津野 均 |
木苺の熟れ隠れ住む人を恋ふ | うかわまゆみ |
潮騒を道にこぼして浅蜊売 | 五十嵐妖介 |
杜に立つ芽立ちの音の中に立つ | 池田のりを |
九十九折を奥の院まで花馬酔木 | 蔵田孝子 |
青空や歩くほど春広がり来 | 小林美喜子 |
田を植ゑて道のぼる人くだる人 | 海野良子 |
黄金虫死すローソンの駐車場 | 酒井航太 |
焼菓子と焼菓子交換して暮春 | 塩見明子 |
飛花落花河口に艀朽ちかけて | 杉本かつゑ |
まつしろに産毛光らせ夏は来ぬ | 小山鷹詩 |
春の風邪白き時間を刻みをり | 髙木胡桃 |
十薬をごつそり抜きし夜の渇き | 柘植史子 |
頂上へ春の力を借りてゆく | 辻 紀子 |
うすらひや相談室を覗く子ら | 添田ひろみ |