「ふう」冬号より つげ幻象抄出(no.30)
ふはふはの服を揺らせて捕虫網 | 栗山政子 |
鳥たちの声を降らせて青嵐 | 東川あさみ |
蟻の道一瞬にして絶たれけり | 久松よしの |
カンバスに流す白色雲の峰 | 深澤れんげ |
ひと息に麦茶飲み干し僧若し | 前川 久 |
新蕎麦や欅一枚板の卓 | 三津守裕美子 |
誰もゐぬ実家たけのこうち揃ひ | 村井丈美 |
もろこしをむしむしむしと食ひ均し | 両角鹿彦 |
原爆の日の白日に曝さるる | 安田蒲公英 |
雑草の中にしやつきり鬼百合よ | 山本洋子 |
水無月や蓮開くころ眠り入り | 岩片えみ |
船虫の素早し石油コンビナート | 伊津野 均 |
朝ぐもり水平線のやはやはし | うかわまゆみ |
ぽとと落つ線香花火みな無口 | 五十嵐妖介 |
二周目は手の喜んでゐる踊 | 池田のりを |
白南風や回数券を使ひきり | 蔵田孝子 |
白桃を真中に夫と語り合ふ | 小林美喜子 |
キャンバスを立て緑蔭に風呼びぬ | 海野良子 |
昼寝から覚めてをかしな人となり | 酒井航太 |
麦の秋軽き鞄に軽き靴 | 塩見明子 |
流灯や何も言はずに目が綺麗 | 杉本かつゑ |
炎昼を跳ねゆく子らの肌眩し | 小山鷹詩 |
たくさんの干物の届く白露かな | 髙木胡桃 |
白玉や再放送のみな若く | 柘植史子 |
茅花流し光の中の乳母車 | 辻 紀子 |
不機嫌な眉間をなでて秋日和 | 添田ひろみ |
影丸く靴紐結ぶ草いきれ | 中田千惠子 |
十薬の闇の中からオートバイ | 春田こでまり |
島から島へ飛魚と並走す | 春田珊瑚 |
老鶯の声肩にのせ山の朝 | 徳永芽里 |