「ふう」春号より つげ幻象抄出(no.31)

木の葉降つて降つて初めに戻りたる栗山政子
金木犀光のしづく幾重にも三津守裕美子
山火事を見てきし眼熱きまま村井丈美
雲割つて寒満月の転び出づ両角鹿彦
ゆく秋の暇を告ぐる鐘ひとつ 安田蒲公英
会ひたくてチャイムを鳴らす手に林檎山本洋子
頭ひとつ抜き出る山の雪光岩片えみ
背中から火照りて来たる紅葉山伊津野 均
ロータリーの午前零時の桔梗かなうかわまゆみ
鯔飛んで造船の街静かなり五十嵐妖介
移ろひの色を待たずに桐一葉 池田のりを
冬支度遅れて今朝の雲低し蔵田孝子
今日までをゆるりと生きて根深汁小林美喜子
小春日や蟹の重さを手秤に 海野良子
小春日の格子の影にゐる私 酒井航太
紅葉かつ散る指先に血の通ひ塩見明子
田の神に雨粒一つ冬ひとつ杉本かつゑ
白菜を剝がせば熱が下がるかも小山鷹詩
ペンギンのどんどん来る冬うらら髙木胡桃
冬来るバランスボールに空気注ぎ柘植史子
大根の朝のリズムは千六本辻 紀子
紅葉散る弓を引くたび射抜くたび添田ひろみ
山国の丸型ポスト暮早し中田千惠子
おしろいや路地裏のパン直売所春田こでまり
ぢりぢりと地球の熱や原爆忌 春田珊瑚
家過ぐるたび虫の音の変はりゆく徳永芽里
一粒に舌の弾けるマスカット久松よしの
青松毬夜半に雨の来るらしき深澤れんげ
夜咄の亭主の点す和らふそく前川 久
茄子ひとつ丁寧に選る暮しかな東川あさみ
手風琴悴む指に音躍る風木えれ