「ふう」夏号より つげ幻象抄出(no.32)

朧夜の谺や山の上ホテル栗山政子
北風の散らしてゆける園児たち山本洋子
屋根の雪どすんどすんと緩み出し岩片えみ
先頭車両にとりどりの春コート伊津野 均
投げつける石ひとつなし冬の海 五十嵐妖介
小春風母のハミングいとほしむうかわまゆみ
ミトンの児ミトンの母の手を握り池田のりを
枯芒揺れて広がるこころかな蔵田孝子
雪の夜や夫と語れり墓のこと小林美喜子
日溜りを次々に生む蝶の翅海野良子
助手席の子は眠りをり冬の月 酒井航太
栄養の良すぎるミモザ眠くなり塩見明子
石蹴の僕の遊び場馬酔木咲く杉本かつゑ
茹で卵つぶす菜の花ゆらゆらと 小山鷹詩
幼子の髪編む春の香り編む 髙木胡桃
記念日やセーターの首ゆるく出て柘植史子
春着の子動く歩道に運ばるる辻 紀子
響く「黙祷」3.11晴添田ひろみ
眼の前の鳥が逆さま梅真白中田千惠子
藪柑子点りて空気入れ替はる春田こでまり
蒼ざめる空よ裸木凛と立ち春田珊瑚
一音も空へ漏らさず鴨の池徳永芽里
投函の音のふはりと水温む深澤れんげ
野菜売る雨の公園寒鴉鳴く久松よしの
演奏の前の黙祷冴返る 前川 久
水槽の魚にとどくか虎落笛東川あさみ
窓を背に春の陽を負ふパイプ椅子風木えれ
母の名を久々に書く雛祭村井丈美
機関車のこつこつ過る蜜柑山両角鹿彦
曾孫を愛でる母の手竹の秋安田蒲公英
草萌やまつ黒な犬お通りだ三津守祐美子
一日を踏ん張り通す霜柱安藤貴夫