「ふう」秋号より つげ幻象抄出(no.33)

遥かより来し暁のかたつむり栗山政子
ほろ苦き日やほろ苦きふきのたう岩片えみ
野焼あと踏めば大地の動きけり伊津野 均
薔薇の香や薔薇の根元に鳥の声 うかわまゆみ
うららかや浜に角なき硝子片五十嵐妖介
風鈴の音を見てゐるごろ寝かな池田のりを
生徒らの帰り河原の花吹雪蔵田孝子
地震後の植田の水を見に行けり小林美喜子
時惜しむかにひとつぶの藤の花海野良子
永遠に網戸の向かう側の人 酒井航太
早春や雨の場合の予定表塩見明子
菜の花見て菜の花食べて成人す杉本かつゑ
春驟雨石のかをりを運び来る 小山鷹詩
水草の花へ太陽降り注ぎ 髙木胡桃
堅香子の花にはいつも向ひ風柘植史子
包丁を持つたまま聞く日雷辻 紀子
潮の香へ開ける島の木下闇中田千惠子
春昼や自動ピアノのガーシュイン春田こでまり
亀鳴くや蕎麦屋の緋毛氈めくれ春田珊瑚
太き幹褒められてをり散るさくら徳永芽里
薔薇深紅ばらの棺に入りたき久松よしの
紫陽花は世の哀しみを背負ふいろ深澤れんげ
朝刊に広げしままの青山椒 前川 久
助手席にランチセットと花の種東川あさみ
自転車と追ひつ追はれつ梅雨の雲風木えれ
新宿の星なき夜を立泳ぎ村井丈美
砲台のあとのあなぽこ風薫る両角鹿彦
白南風を追ふ自転車の児の目線安田蒲公英
ゴンドラの下り大山蓮華見ゆ三津守祐美子
一夏の雲土手から空へふくれゆく安藤貴夫
何もかも磨きたくなる春日かな山本洋子