「ふう」春号より 栗山政子抄出(no.15)

葱買うて西へ東へ散りぢりに前川 久
白鳥来五十羽までは田に数へ三津守祐美子
文字持たぬ民草のうた冬銀河村井丈美
惣菜に値下げのシール夕時雨安田蒲公英
ベビーカー押して出勤花芙蓉山本洋子
漁網干す冬青空を獲物とし五十嵐妖介
寒灯や格天井の刷毛の痕池田のりを
未だ風に固き姿勢の冬木立伊津野 均
単線の午前に二便山眠る上田信隆
鈴虫の次々生まれこそばゆしうかわまゆみ
むささびの尿月光の降るやうに海野良子
一葉落つこの道をただまつすぐに大石 修
冬もみぢボート乗り場にボート伏せ蔵田孝子
初雪の白美しきうらおもて小林美喜子
沈黙がぽつとケーキに落ちて冬小山鷹詩
矢印とパイロンの朱や秋彼岸酒井航太
跳ぶ前に少し考へをる螇蚸塩見明子
旅たのしポプラ並木に月明かり杉本かつゑ
山道を行けば狐の貌ふたつ髙木胡桃
月楕円ゆつくり逸れるモノレール田中まり
落葉掃き己の影を掃き出せりつげ幻象
雪来るか薄く眼をあくピスタチオ柘植史子
鵙日和着付けのモデル息を吐く辻 紀子
冬薔薇夕日の線をのせてをり徳永芽里
そよ風も日差しもよけれ野紺菊中里鮎子
鳥声の空に眩しき枯木立中田千惠子
夕顔と名のつく菊の奔放に春田こでまり
レット・イット・ビーの音量を上げ雨月春田珊瑚
時差ありて昨日と話す秋の昼東川あさみ
秋灯へそつと来てゐるソクラテス久木すいか
行く秋や床に映れる車椅子久松よしの
世界一長いベンチの月見かな広瀬信子
ひそひそと話をしたき霧の中深澤れんげ